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COLUMN | 2022.6.3

為替の処方箋

執筆者
岡野 大
代表取締役 最高経営責任者(CEO)

この記事は、SUSTENのインサイト「為替の処方箋」からの一部抜粋記事です。

為替のリスク

一般的に、海外の資産に投資する際には、為替のリスクを負うことになります。これは株式であろうと、債券であろうと、あるいは不動産であろうと、外国通貨で取引されるものであればすべてに共通します。

たとえば米国企業の発行する株式に投資することを考えたとき、購入した株式の価格が100ドルから120ドルに20%値上がりして売却できたとしても、購入時と売却時の為替レートしだいでは、株価上昇分の収益が得られるとは限りません。もし購入時の為替レートが1ドル120円で、売却時の為替レートが1ドル100円だった場合、せっかく株式投資そのものがプラスだったとしても、円評価した際には収支トントンになってしまいます。

購入価格:100ドル=12,000円(1ドル=120円)
売却価格:120ドル=12,000円(1ドル=100円)
売却時に円高になってしまうと、株価が値上がりしても為替差損によって収支は±0に

国際分散投資を行う際には、投資対象(株式や債券、不動産など)のリスクに加えてこの為替リスクを考慮することが重要ですが、為替の将来予測は大変難しいことで知られています。市場が高度に効率的であれば、為替レートはほとんどランダムに動くことになるでしょう。為替レートに影響を与えると言われる要素、例えば経済成長率の差やインフレ率の差、金融・財政政策や地政学上の動向またそれらの将来の見通しなど、すべての情報は瞬時に為替レートに反映されるため、特定の情報を元に将来の為替を予測することが困難です。

ドル円為替レートの推移(期間:1980年1月1日から2022年5月31日 出所:株式会社sustenキャピタル・マネジメント、Bloomberg

為替リスクをなくす方法

海外投資の収益を消してしまう可能性のあるこの厄介な為替リスクですが、そのリスクを避けて海外資産に投資する方法もあります。それが為替ヘッジと呼ばれるものです。為替ヘッジを行うことで、例えば先ほどの例:購入した株式の価格が100ドルから120ドルに20%値上がりした場合において、将来為替水準がどうなろうとプラスのリターンを確保することができます。※1
(※1 海外株式のリターンが当該国の無リスク金利を上回る場合において)

どのように為替リスクをなくすかというと、一般的にもっとも広く活用される手法としては、為替の先渡し契約を結ぶというものがあります。この契約のことを為替フォワード取引とも言います。

具体的には、先ほどの例でいえば株式を100ドルで購入(1ドル120円)したタイミングで、将来決められたレートで通貨を交換できる契約、例えば1年後に自分の持っている100ドルを11,700円と交換してもらう約束(契約レート:1ドル117円)を第三者と結びます。

この契約を結んでおくことで、株式を売却して得られた120ドルのうち100ドル分は、為替が1ドル100円まで円高になろうとも先渡し契約に基づき1ドル117円で交換できますから、11,700円の価値となります。値上がり分の20ドルは売却時の為替レートである1ドル100円の評価となり、2,000円の価値です。合計すると11,700円 + 2,000円 = 13,700円となります。当初、株式の購入に要した金額12,000円(= 100ドル x 120円/ドル)を差し引くと、1,700円が手残りとなり、これは+14.2%のリターンに相当します。

一般的に「為替ヘッジあり」と言われる投資信託や金融商品は、運用会社が裏側でこのような為替先渡し取引を実行することで投資家の為替リスクを軽減させています。

為替ヘッジコストは「コスト」なのか

さてこの為替ヘッジですが、時に「ヘッジコスト(あるいはヘッジプレミアム)」が発生すると言われることがあります。先の例でいえば、1年後に交換してもらう為替レートが、契約時のレートである1ドル120円ではなく1ドル117円と、3円(120円に対して2.5%)低いレートが設定されている部分です。つまり将来円を受け取る人(為替ヘッジをしたい人)にとっては契約金額に対して2.5%不利なレートで将来交換されるように見え、この差額分がヘッジコストと言われます。(もし1年後の約束レートが1ドル123円なら、2.5%のプレミアムがついていると言われ、有利に見えます。)

この為替レートの差額はいったい何でしょう。
その答えは通貨ごとの金利の差です。※2
(※2 ここでは単純化して将来の金利見通しに変化がなく、取引の需給がバランスしている状態を仮定します。)

というのも、前述の例で考えた為替先渡し契約を例に取って考えましょう。為替ヘッジをしたい人をAさん、為替先渡し契約の相手方をBさんとしてみます。Bさんにとっては、将来どんな為替レートになろうとも、1年後にはAさんの持つ100ドルと交換するだけの円を用意しなければなりません。言い方を換えると、将来どんな為替レートになろうとも、必ず交換できるだけの為替レートをAさんと約束する必要があります

1年後に1ドル100円になっているか1ドル140円になっているかはわかりませんが、契約したタイミングですぐに手元の100ドルを12,000円(1ドル120円)に換えて円として準備しておけば、1年後為替レートがどうなろうとも確実に12,000円は支払うことができます。Bさんは先渡し契約時に100ドルを使って12,000円を用意する必要がありますが、1年後には確実に100ドルを回収できるので、1年後の交換レートを1ドル120円と設定しても悪くはなさそうです。

しかし通貨間で金利水準が異なると話は変わってきます。もしドルであれば1年銀行に預けておくと2.5%の金利が付くのに対して、円で預金しても1年で金利が全くつかない場合はどうでしょう。この場合、Bさんが契約時に100ドルを12,000円に換えて準備してしまうと、(この契約を結ばなければ)銀行で1年後には100ドルが102.5ドルになっていたはずの資金が、先渡し契約で回収できるのは100ドルでしかなくなるため、実質的に2.5ドルを受取り損ねてしまいます

これでは、Bさんがこの先渡し契約を結ぶことで一方的に不利を被ってしまう(すなわちAさんが一方的に得をする)ので、そのようなことがないよう、将来BさんがAさんに支払う円から金利差相当である2.5ドル分を減額して、(100-2.5) x 120 = 11,700円(1ドル117円設定)を将来の受渡金額として設定するのです。こうすれば、両者にとってこの契約はフェア(誰も無条件に損をしたり得をしたりしない)となります。

反対に、もしもドル金利よりも円金利の方が高ければ、この差分はプラスとなり、将来の受渡レートはそれを解消する1ドル120円以上とするのがフェアです。ここで大変重要なのは、

1. 先渡しの契約レートは、通貨ごとに異なる金利差が反映される
2. 先渡し契約の当事者双方にとって契約による損得がない

いうことです。

つまり、為替ヘッジをする際に通貨ごとの金利差によってヘッジコスト、ヘッジプレミアムという表現が使われるものの、その取引によって当事者が実際に損をしていたり、得をしていたりすることはなく中立の状態なのです。もちろん為替レートの変動の結果として為替ヘッジしていた方が得だった、損だったというのはありえますが、為替ヘッジにかかる金利差によって損得は生まれません。

為替リスクは完全にヘッジしてしまった方が良い?

為替リスクをヘッジする際に発生する金利差が、ヘッジをする人にとって損でも得でもないならば、いっそのこと為替ヘッジによって不要な為替リスクは全て取り払ってしまい、リターンの期待できるリスク(たとえば株式や債券を保有することで発生するリスク)だけを残した方がいいのではないでしょうか。投資の大原則として、リターンが期待できるからこそリスクを取るべきです。リターンが期待できるか分からないのに、やみくもにリスクを取ることはもはや投資ではありません。

市場が高度に効率的であれば、将来の為替レートを予測できるものではなく(つまり特定の為替リスクを取ることで期待できるリターンはなく)、また投資家が許容できるリスクに上限が存在するならば、為替リスクを100%ヘッジすることは理にかなっているように思えます。

ですが実に面白いことに、為替リスクを100%ヘッジすることも、全くヘッジしないことも、そのどちらも最適ではありません
為替リスクの最適なヘッジ比率を提唱したBlack(1989)の論文では、次のようなたとえ話が挙げられています。

物事を非常に単純化して、人々がリンゴを食べて生活するリンゴの国と、オレンジを食べて生活するオレンジの国を考えてみましょう。いまリンゴとオレンジの等価交換比率が1:1であったとして、これが来年50%の確率で1:2になるか、もしくは2:1になる場合を想定します。
リンゴの国の住人としては、いま手元にあるリンゴ1個は来年になってもリンゴ1個です。しかし、いま持っているリンゴをオレンジと交換しておくと、来年には50%の確率で2個のリンゴになるか0.5個のリンゴになるため、期待値としては1.25(= 2 x 50% + 0.5 x 50%)個のリンゴを手に入れられることになります。全く同じことがオレンジの国の住人にもいえ、双方がいまリンゴとオレンジを交換することで、双方の住人にとって財が増えることが期待できるようになるのです。

リンゴの国の人々はオレンジを全く食べないにも関わらず、資産の一部をオレンジに変えて持っておくことが得策(= 期待値的にプラス)であるというところに意外性があります。これはSiegelのパラドックスとしても知られています。

Black(1989)では、均衡アプローチに基づき具体的にどの程度為替リスクをヘッジすべきかを論じていますが、これについてはまた別のコンテンツにて紹介したいと思います。

まとめ

この記事では海外資産に投資する際に付随する為替リスクとその回避(ヘッジ)方法、およびヘッジコストやヘッジプレミアムと表現される金利差について解説しました。海外資産に投資する際には為替の持つ不確実性に注意してポートフォリオに組み入れることが大切です。為替に対する強い見通しを持っていない投資家であれば、理論的に最適とされる部分的な為替ヘッジの利用も検討してみてはいかがでしょうか。

1. 海外資産に投資する際には為替リスクが付随するが、それを回避(ヘッジ)する方法もある。
2. 為替ヘッジによって発生する「ヘッジコスト」や「ヘッジプレミアム」は、無条件に損失や収益となるものではなくリスクに対して中立的なもの。
3. 理論的には、為替ヘッジ比率は100%も0%も最適ではない。

執筆者
岡野 大
代表取締役 最高経営責任者(CEO)

2012年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント入社。戦略株式運用部(ヘッジファンドチーム)にて数百億円規模の株式、デリバティブ、為替等の投資判断を行った。ポートフォリオ・マネージャーとして海外の機関投資家のために運用を行ってきた一方で、日本の個人投資家のために品質の高いサービスを提供したいと思い続け、2019年7月株式会社sustenキャピタル・マネジメントを創業、代表取締役CEOに就任。東京大学大学院工学系研究科修了(修士)

2012年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント入社。戦略株式運用部(ヘッジファンドチーム)にて数百億円規模の株式、デリバティブ、為替等の投資判断を行った。ポートフォリオ・マネージャーとして海外の機関投資家のために運用を行ってきた一方で、日本の個人投資家のために品質の高いサービスを提供したいと思い続け、2019年7月株式会社sustenキャピタル・マネジメントを創業、代表取締役CEOに就任。東京大学大学院工学系研究科修了(修士)