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COLUMN | 2022.8.2

ファクター投資

3ファクターモデル」と「マルチファクターモデル」では市場連動ファクター(市場ポートフォリオ)以外のファクター(リターンの源泉)を用いて個別証券のリターン分析が行えることをご紹介しました。今回は、投資戦略としてのファクターの活用についてご紹介します。

ファクター投資とは

ファクターとは株式、債券などの資産や個別株のリターンやリスクを説明する要因を指します。具体的には、ファンダメンタルファクター、マクロ経済ファクター、統計ファクターなどがあり、マルチファクターモデルで用いられることがあります(詳細は「マルチファクターモデル」をご参照下さい)。

ファクター投資とは、市場連動ファクター以外のファクターに投資を行うことで、マーケット・リスク以外のリスク要因へのエクスポージャーを取ることによりリターンの獲得を狙う投資手法のことです。

ファクター投資では動的ファクターが用いられることが一般的です。株式や債券の市場連動ファクターは単に資産を購入(ロング・オンリーのポジション)することによって投資できるため、静的ファクターと呼ばれます。一方、動的ファクターとは、市場連動ファクターの影響(マーケット・リスクへのエクスポージャー)を抑えるためにロング・ショート(買い持ちと売り持ち)のポジションを含む動的な取引が必要になり、継続的なポジションの調整(リバランス)が必要になります。動的ファクターの例としては「3ファクターモデル」でご紹介した小型株効果やバリュー効果といった個別株式におけるファクターなどが挙げられます。このような動的ファクターに投資を行うことをファクター投資と言います。

動的ファクターの作成は、ジャッジメンタルな手法(人による投資判断手法)ではなくシステマティックでルールベースな手法(定量的な運用手法)が取られることが一般的です。例えば、3ファクターモデルのHML(High Minus Low)ファクター(バリューファクター)を例にあげると、PBR(Price to Book Ratio、株価純資産倍率)の低い株式を選択することで作成できます。PBRの低い銘柄の選定は、しきい値さえ決めてしまえば自動的に選択が可能です。従って、動的ファクターの作成やファクター投資の実行はシステマティックなプロセスとなり、クオンツ的運用手法と相性が良いです。

ファクターの条件

ファクター投資で用いられるファクターとは具体的にはどのようなものでしょうか。これまで数百ものファクターが提唱されており、その定義も提唱者により異なることが多いです。まずはファクター投資として求められるファクターの条件を列挙します。

収益性 
 長期にわたり有意な期待リターンが期待できること
 
合理性
 なぜそのファクターの期待リターンが存在するのか経済的、論理的説明が可能であること 

持続性
 特定の時期だけに存在するのではなく、時間を超えて存在し続けること
 
普遍性
 特定の資産、国、セクターだけでなく、市場をまたいで存在すること
 
投資可能性
 流動性がありシステマティックな投資プロセスにより投資可能であること

ファクター投資では動的ファクターに投資を行うと言いましたが、マクロ経済ファクターへの投資は可能か考えてみます。

GDPやインフレなどのマクロ経済ファクターに投資するアイデアは純粋なものと言えます。なぜなら、株式は経済成長とともに成長するものであり、またインフレとも連動性があります。株式の期待リターンをマクロ経済ファクターで分解するとGDPやインフレなどのファクターで説明できるでしょう。そのマクロ経済ファクターに投資を行うというアイデアは、ファクター投資と何ら違いはありません。しかしながら、株式の構成ファクターのうちGDPファクターだけ取り出して投資を行うのは非常に困難です。ある銘柄群だけがGDPファクターを持っているわけではないでしょうし、株式にはインフレなど他のマクロ経済ファクターも含んでいることからGDPファクターだけ抽出する一般的な方法はありません。

このように、マクロ経済ファクターはファクターの条件である投資可能性がないために、ファクター投資の観点では実践が非常に難しく、ファクター投資で選ばれることはあまりありません。

広く認識されているファクター例

それではファクターの条件に当てはまる代表的なファクターをご紹介します。

キャリー 
 高利回り資産が低利回り資産をアウトパフォームしやすい性質を利用するファクター
 
モメンタム
 直近上昇した資産が直近下落した資産をアウトパフォームしやすい性質を利用するファクター 

バリュー
 割安資産が割高資産をアウトパフォームしやすい性質を利用するファクター
 
ディフェンシブ
 低リスク資産が高リスク資産をアウトパフォームしやすい性質を利用するファクター
 

ここで挙げたファクターはスタイルファクターと呼ばれることがあります。スタイルファクターとはファクターの条件に当てはまる動的ファクターで、各資産に共通する特徴を抽出したものです。

これらのファクター以外も様々なファクターが存在しており、ファンド運用者などの実務家や研究者が日々新しいファクターの発見に努めています。

例えば、近年ESGもファクターとして認知されつつありますが、それが投資に値するファクターかどうかはファクターの条件に照らし合わせて判断することが望ましいです。過去のパフォーマンス(バックテスト)が良く、一見すると魅力的に映るファクターもあるでしょうが、理論的に納得感のある説明ができるか、特定の時期にのみ作用するファクターではないか、あらゆる資産や市場で普遍的に観測されるファクターであるか、などがチェックすべきポイントとなります。

ファクター投資の意義

次に、投資戦略としてのファクター投資の意義についてご説明します。

世界的にも大規模なノルウェーのソブリン・ウェルス・ファンド(ノルウェー政府年金基金グローバル、GPFG)が2009年に発表したアクティブ運用に関する報告書(A. Ang, W. Goetzmann and S. Schaefer (2009) https://www.regjeringen.no/en/topics/the-economy/the-government-pension-fund/eksterne-rapporter-og-brev/reports-on-active-management-of-the-gove/id2357344/)にて、ファクター投資の優位性を示しました。

報告書では、伝統的なアクティブ運用のパフォーマンスは運用者のスキルを反映したものではなく、その大部分は動的ファクターへのエクスポージャーを取っていることが要因だと示しました。また、運用戦略としては動的ファクターに長期的に投資することでリターンを最大化することが適切であると提言しています。

つまり、動的ファクターは市場連動ファクターと異なる収益源から長期的に「リスク・プレミアム」をもたらすものであり、アクティブ運用の大部分が動的ファクターで説明できるために、ファクター投資が有効である、ということを言っています。

ファクター投資の特性

最後に、投資ツールとしてのファクター投資のメリットをまとめます。

パフォーマンス 
 ファクター投資で用いられるファクターは長期にわたり有意な期待リターンが存在するもののみが選択されるため、市場連動ファクターと同様に長期投資が有利と考えられます。
なお、市場連動ファクターへの投資において市場が下落すると損失が発生するのと同様、特定のファクターへの投資において当該ファクターのリターンがマイナスとなり損失が発生することはあり得ます(例:小型株効果に着目し小型株を買い持ち、大型株を売り持ちする戦略で運用する場合、大型株が小型株よりも相対的に大きく値上がりすれば、例え株式市場の全ての銘柄がプラスのリターンをあげていても、当戦略のリターンはマイナスとなります)。
 
高い透明性
 伝統的なアクティブ運用ではファンドマネージャーの経験やスキルといった説明が難しい要因で運用されることが多いです。ファクター投資はあらかじめ定められたルールのもと、特定のファクターに投資を行うため、高い透明性が確保されます。

低コスト
 ファクター投資はシステマティックなルールベースの投資となるため、伝統的なアクティブ運用よりも低コストで提供されているケースが多くみられます。

分散投資
 ファクター投資は株式や債券といった市場連動ファクターとは異なるリスク・プレミアムを狙う投資手法であるため、既存の株式や債券のポートフォリオに組み入れることで分散効果が期待できます。

人的な行動バイアスの排除
 伝統的なアクティブ運用はファンドマネージャーが投資判断を行うため、ファンドマネージャーによるバイアスが入ってしまいます。例えば、収益獲得よりも損失を避けるような行動(損失回避バイアス)であったり、自身の投資判断と整合的な情報のみを重視してしまう傾向(確証バイアス)などが挙げられます。ファクター投資はシステマティックなプロセスにより運用されるため、そのような行動バイアスを排除することができます。 

まとめ

ファクター投資とは、市場連動ファクター以外の動的ファクターに投資を行う手法
動的ファクターとはロング・ショートのポジション等継続的なポジションの調整が必要なファクター
・ファクター投資で用いられるファクターはスタイルファクターが一般的
・ファクターは無数に存在するが、ファクター投資で用いる際はファクターの条件に照らし合わせて選択することが有効
・ファクター投資は様々なメリットがあり、長期的な投資に有効

参考文献

・『資産運用の本質:ファクター投資への体系的アプローチ』、アンドリュー・アング著
・『ファクター投資入門』、アンドリュー・L・バーキン、ラリー・E・スウェドロー著
・『期待リターン』、アンティ・イルマネン著