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COLUMN | 2022.3.29

投資をはじめるにあたって考えたいこと 

執筆者
岡野 大
代表取締役 最高経営責任者(CEO)

こんにちは、sustenキャピタル・マネジメント代表取締役の岡野です。 

今回のエントリーでは、実際に投資を始めようと思ったときに、何から考えるべきかといった部分をお話します。 

特にこれまで銀行預金しか行ってこなかった方々にとっては、初めて投資に踏み出す際には何から手を付けたらいいか分からなくなるのは当然のことですし、すでに投資を実行されている方にとっても現在の投資額が理想的な状態なのかを振り返る機会にしていただけたらと思います。 

どのくらいのリスクをとっていいか:リスク許容度

投資を始めるにあたって、まず考えなければいけないのは、自分が「どのくらいのリスクを取っていいか」という点です。いくら投資をすればリターンが見込めるからといって、リスクを無限に取ることはできません。すべての人には許容できるリスクの大きさについて限界が存在し、まず投資を始めるにあたってはこの限界点を把握することが大切です。この自分が取っていいリスクの大きさのことを、リスク許容度といったりします。リスク許容度には大きく分けると2つの要素があります。1つは心理的なリスク許容度、もう1つは経済的なリスク許容度です。 

心理的なリスク許容度とは、私たちの性格や考え方、哲学等によって決まるものです。どれだけ裕福な人でも、価格が変動することに耐えられない性格の人や、資産を減らすことを極端に嫌う人は、この心理的なリスク許容度が低く投資できる余地は大きくありません。わたしたちの提供するサービス『SUSTEN』の無料診断の統計を見ても、大体10人から15人に1人の方は、たとえ金銭的余裕があったとしても心理的リスク許容度がとても低いことが見て取れます。一方で、少し思い出していただきたいのは、私たちは元本が保証された銀行預金だけで資産運用をしていようとも、生活していれば実質的にはすでにリスクを背負っているということです(こちらの記事を参照のこと)。値動きという明確な変動が見えずとも、現金の持つ購買力は絶えず変化しており、世界全体で見れば毎年数パーセントずつ現金の持つ購買力は低下していると考えられます(俗にいうインフレというものです。)。この事実を俯瞰的に考慮すれば、多少リスクに対する心理的な許容度が高まるかもしれません。 

もう1つの要素である経済的リスク許容度は、私たちの収入や財産、生活スタイル、家族構成等で決まります。収入が高い人であれば、投資において損失が出たとしても生活に支障はでませんし、反対に支出の高い人にとっては、いくら財産が多くても投資において損失が出たときにその生活を維持できなくなる恐れがあります。家族構成も重要な要素です。もし養う必要のある家族が複数いるならば、経済的なリスク許容度は低くなりますし、あるいは共働き世帯であればその分何かあったときに支え合える家族がいるため経済的なリスク許容度は高くなります。このように、収入や財産等の数字を用いて私たちの経済的な余力を計算することで、どのくらいのリスクまでは耐えられるかについてはある程度計算可能になります。 

心理的なリスク許容度を持ち、経済的なリスク許容度もある程度あるのであれば、いよいよ投資実行しても差し支えないということになりますが、経済的なリスク許容度には必ず限界があります。いくら心理的なリスク許容度が非常に大きくとも、無限に資産を持っている人や無限に高い収入を持っている人はいないため、どこかに上限が存在するのです。取れるリスクの大きさに限界があるということは、私たちにとって許容できるリスクの大きさはいわば重要な資源とみなすことができます。この資源をいかに有効に活用していけるかが、理想的な資産運用の鍵を握ります。効率的な投資を行うにはどのようにポートフォリオを構築するべきか、については、また別の記事にてお話する予定ですが、この記事ではまずはいったいいくらまで投資していいのか、経済的なリスク許容度の概算を考えてみます。 

 (経済的な)リスク許容度の概算

さて、投資と言っても、その方法は多岐に渡るため一律に適用できる考え方はありません。例えば株式投資ひとつ取ってみても、それが上場されている(公開されている)株式を対象としたものなのか、非上場の(非公開の)株式を対象としたものなのかによっても全く性質は異なります。ここでは少し範囲を限定して、流動性の高い投資行動にしぼって考えてみましょう。 

流動性、聞きなれない言葉が出てきましたね。この流動性というのは、どのくらい簡単に投資対象を売ったり投資を止めたりできるかということを表す言葉です。上場株式への投資であれば、証券取引所が開いている時間であればいつでも売買をすることができますし、公募投資信託は平日であれば1日1回はフェアな価格(売り手にとっても買い手にとっても公正といえる価格)で売買することが可能です(どちらにおいても例外はありますが、いったん無視します)。こういった投資行動は流動性が高いといえます。投資対象の価格に想定外のことが発生したり、投資家の生活に何か不測の事態が発生したりしても、すぐに解約することができ、数日内に換金することできます。これに対して流動性の低い投資というのは、代表的なものでは実物不動産に対する投資が挙げられます。実物不動産は、売りたいと思ってもすぐにフェアな価格で売却できるとは限りません。証券取引所のような誰でも自由に参加できる開かれた市場はないため、すぐに売却して換金するためには不当に安い価格でオファーしなければ買い手がつかない可能性があります。不動産に限らず、ほとんどの実物資産への投資は一般的に流動性が低いといえ、最近では未上場株投資やソーシャルレンディング、一部のクローズドエンド型投資信託なども流動性の低い投資といえます。 

リスク許容度を考えるとき、流動性が低いものへの投資をする際には特に注意が必要です。投資期間中に、自身に何か不測の事態が発生すると、いくら投資資産があったとしても手元の現金が十分に用意できなくなる可能性があるため、投資を解約する際にどの程度の期間を要するのか、ペナルティを払うことで途中解約ができるのか、そもそも事実上解約ができない条件なのかはしっかり把握するようにしましょう。初めて投資を始められる方にとっては、まずは流動性の高いものから始める方が無難ですし、玄人の方にとっても(高流動性資産と比較して)十分な魅力がない限り、低流動性資産に投資する必要はないかもしれません。 

では流動性の高い投資(1日以内に解約ができる投資)に限定して、リスク許容度を考えていきましょう。計算するにあたって最低限必要なのは、ご自身の収入(A)、支出(B)、資産の状況(C)です。ご想像の通り、収入や資産は多ければ多いほど経済的リスク許容度は高くなりますし、支出が多ければ多いほど経済的リスク許容度は低くなります。続いて、不測の事態に対して何カ月分の準備(D)をしたいかを考えます。一般的には半年程度の生活費の蓄えが欲しいとされることが多いようです。こちらは家族構成や年齢、職業によっても左右されます。再就職しやすい職業の方でしたら実際には半年分も蓄えは必要ないでしょうし、同様に共働き世帯の方でしたら支え合える家族もいるので3カ月分程度でもいいかもしれません。反対に、定年を近く控える方や年金暮らしの方、養う家族や兄弟が多い方にとっては半年では心もとなく、1年程度蓄えた方が良さそうです。また日本に住んでいる方でしたら、現在の社会保障制度が継続する限りにおいては高額医療保障制度を含む各種公的保険が充実していますし、失業率も低い状況が続いていますので、少し短めの準備でも構わないと想定されます。この記事ではDは6か月分と置いてみます。 

今回は仮に、独身の30代、年収400万円(手取り320万円:A)、支出が年間240万円(B)、貯金が150万円(C)の方を想定してみましょう。投資はしておらず、資産運用はすべて銀行預金で行っている状態にあるとします。この方の心理的リスク許容度が十分に高いと考えたときに、いくらまで投資することが可能でしょうか。ここで、投資対象は『現代ポートフォリオ理論』にのっとり、世界中の上場株式に投資をする全世界株式投資信託としてみます。 

まずはこの方の不測の事態に対する準備、生活防衛資金の金額を計算します。上で述べた通り、6か月分の蓄えをしようと考えた場合、その金額は 

D=B÷2=120万円ですね。 

生活防衛資金が120万円の方の投資金額を考えるときには、なにかリーマンショックのようなことが起こったとしてもこの120万円が傷つかないようにする、ことを考えます。現在貯金が150万円ありますので、生活防衛資金120万円との差額である30万円までは特に注意せずとも投資に回せます。たとえ投資額が全損したとして、生活防衛資金に傷がつかないと考えられるためです。ただ、常に全損のことを考慮して投資金額を検討してしまうと、一見これは安全な方法のようで弊害も大きいので注意が必要です。というのも、「投資はどんなものでも全損の可能性があるから、30万円しか投資できない」と考えてしまうと、その限られた30万円の中でリターンを無理に最大化しようとして、かえってリスクを過剰に取ろうとしてしまいがちなのです。 

たとえば、期待リターンが5%/リスクが15%の投資商品Pと、期待リターンが10%/リスクが40%の投資商品Qがあったとき、どちらも全損の可能性があるならば単純に期待リターンの高さからQ(リターンが10%/リスクが40%)の投資に賭けてしまう、といった具合です。ですが、PもQもどちらも全損する可能性があるとはいえ、全損する確率がより高いのはリスクの高いQへの投資であり、PとQを投資効率(リスク対比で見たリターンの高さ)で比べるならば Pの方が優れています。なかなかこのあたりの議論は理解されづらい部分もありますが、「全損する可能性があるかないか」という二元論に向かいがちな人たちは、リスクを取れる部分の資金について高いリターンを狙うあまり、高いレバレッジをかけたFX取引に傾倒したり、仮想通貨といった高リスク投資にはまったりして、結果的に大きな火傷を負う人が増えます。投資行動を検討する際にはこのように全損の可能性のあるなしで資金を区分けする二元論的アプローチは避け、「全損する確率はどのくらいあるのか、リターンとリスクのバランスはどの程度か」というグラデーションを持った考えを持つべきです。

投資上限額の計算例 

具体的に上記の例で、全世界株式投資信託にいくらくらい投資することが理想的かを考えてみます。それには、投資対象がどのくらいの確率でどの程度の損失を発生させる傾向にあるかを把握することが重要です。たとえば全世界株式への投資の場合、過去の金融危機時には50%程度の損失が発生しました。このような損失は確率的には1%未満でしか発生しないと考えられてはいるものの、歴史的には10年に1度程度発生しています。こういった10年に1度程度起こりうる損失があったとしても生活防衛資金を守るために、いくらまで投資をしていいかを考えましょう。

(参考)10年に1度の危機時に発生しうる損失額

投資対象最大損失額*
ビットコイン -85% 
FX
(ドル円 5倍) 
-65% 
個別株 -55% 
米国株インデックス
(為替ヘッジなし) 
-45% 
日本株インデックス -35% 
米国株インデックス
(為替ヘッジあり) 
-30% 
米国債券インデックス
(為替ヘッジなし) 
-25% 
ドル円 -20% 
米国債券インデックス
(為替ヘッジあり) 
-10% 
*最大損失額は、各資産のリターンの確率分布が対数正規分布に従うと仮定したうえで、Value At Risk(VaR)を用いて算出しました。VaRは1%の確率で起こりうるマイナスの期待値であり、損失の最大値ではありません。歴史的に、この値より大きなマイナスを幾度も経験しています

投資対象に50%の損失が出たとしても、120万円の生活防衛資金に傷がつかないようにするには、この予想最大損失額が発生した場合であっても生活防衛資金が守られるように投資額の上限を決めることが必要と考えられます。具体的に計算しますと、 

$$(\rm{C}-\rm{D})÷50\%=(150-120)÷50\%=60万円 \cdots ①$$ 

まで投資することが少なくとも可能そうです。 

さらに、この投資家の場合、手取り収入が支出を上回っている状態ですので、次の6カ月で 

$$(\rm{A}-\rm{B})÷12 \times 6カ月 = 40万円 \cdots ②$$  

の貯蓄ができることが考えられます。 

総合すると、①の60万円と今後半年で貯金できるだろう②40万円を足した100万円程度は(投資対象が全世界株式であれば)投資することが可能という計算になります。もともと貯金が150万円でしたので、100万円を全世界株式に投資し、50万円を銀行預金に預ける状態が経済的リスク許容度の限界となります。 

いかがでしょうか、かなり現実的なイメージを持っていただけるのではないでしょうか。ご覧いただいた計算は、あくまでも流動性の高い資産に限定して投資を行った場合です。流動性の低い資産に投資する際には当てはまらないのでご注意ください。また、上記の計算式はあくまで例に示した人(独身の30代、年収400万円(手取り320万円)、支出が年間240万円、貯金が150万円の方)を想定していますので、ご自身に当てはめる際には各数値を適切に調整してみてください。特に、収入が支出を下回っている場合は、投資余力から相応の分投資金額を引き下げるべきですし、投資対象のリスクの大きさはしっかり反映させる必要があります。 

また、計算式はあくまで経済的なリスク許容度の算出です。心理的なリスク許容度の低い人は、経済的なリスク許容度の計算式から算出された金額から減らした投資額にしないと、精神的に不安になってしまいます。もし現在の貯蓄と今後半年の想定貯金額の合計が、生活防衛資金に満たない場合は、無理に投資する必要はありません。その状態のときには、「確実な資産運用方法」である銀行預金にて資産運用をしましょう。何も全員が投資をしなければならない、投資をしている方が最適というわけではないのです。投資は、将来的に資金がたまってきて、経済的リスク許容度が出来てからで十分です。不要なリスクを取る必要はありません。 

本記事でのモデルにおける試算例
(30代独身、年収400万円(手取り320万円)、支出年間240万円、貯金150万円の方)

項目金額等
 額面年収400万円
手取り年収(A) 320万円 
年間支出(B)240万円
貯金 (C)150万円
生活防衛資金
(D=B/2:半年分)
120万円
生活防衛資金控除後の貯金
(E=C-D)
30万円
予想最大損失額
(F:全世界株式投資信託)
50%
既にある貯金から回せる投資資金
(G=E/F)
60万円
今後半年間の貯金から回せる投資資金
(H=(A-B)/2)
40万円
投資上限額
(I=G+H)
100万円
銀行に最低限預けるべき金額
(J=C-I)
50万円

まとめ

資産運用を始める際には次の3つのステップが大変重要です。 

1.心理的なリスク許容度を考えてみる
2.経済的なリスク許容度を考えてみる
3.投資対象の持つリスクの大きさを知り、最大投資金額を計算してみる

これらのステップを踏まずに、やみくもに投資をすると思わぬところでケガをしたり、後悔したりする可能性があります。適切に設計し、適切に管理さえすれば投資はそれほど怖いものではありませんので、ぜひ挑戦してみてください。 

 

執筆者
岡野 大
代表取締役 最高経営責任者(CEO)

2012年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント入社。戦略株式運用部(ヘッジファンドチーム)にて数百億円規模の株式、デリバティブ、為替等の投資判断を行った。ポートフォリオ・マネージャーとして海外の機関投資家のために運用を行ってきた一方で、日本の個人投資家のために品質の高いサービスを提供したいと思い続け、2019年7月株式会社sustenキャピタル・マネジメントを創業、代表取締役CEOに就任。東京大学大学院工学系研究科修了(修士)

2012年ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント入社。戦略株式運用部(ヘッジファンドチーム)にて数百億円規模の株式、デリバティブ、為替等の投資判断を行った。ポートフォリオ・マネージャーとして海外の機関投資家のために運用を行ってきた一方で、日本の個人投資家のために品質の高いサービスを提供したいと思い続け、2019年7月株式会社sustenキャピタル・マネジメントを創業、代表取締役CEOに就任。東京大学大学院工学系研究科修了(修士)