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COLUMN | 2022.4.26

効率性とアクティブ運用

前回の「効率的とは」では効率的な市場とは何か、という点についてご説明しました。今回は、市場の効率性とアクティブ運用、パッシブ運用の関係についてご紹介していきます。

市場の効率性の分類

前回の「効率的とは」では証券価格が入手可能なすべての情報を「完全に・速やかに・理論的に」反映して価格付けされている時に「市場が効率的である」とご紹介しました。そのような時には市場価値(市場における現在の証券価格)と本質的価値(ファンダメンタル価値、証券に関する入手可能なすべての情報を使って導き出された価格)が等しくなるということも触れました。

ここで、本質的価値がどの程度情報を反映しているかによって市場の効率性を分類する枠組みをご紹介をします。1970年にファーマが市場の効率性を分類する3つの区分を提唱しました(Fama, Eugene F. “Efficient Capital Markets: A Review of Theory and Empirical Work.” The Journal of Finance 25, no. 2 (1970): 383–417. https://doi.org/10.2307/2325486 .)。

ウィーク・フォーム(弱度の効率性)

現在の市場価値に過去の証券市場のデータがすべて反映されている状態を指します。過去の証券市場のデータとは、その証券の過去の価格や出来高(1日など一定期間内に売買が成立した株式の数量)などのことです。ウィーク・フォームが成り立つ市場では、将来の価格は過去の価格や出来高と独立しているため、それらの情報から将来の価格を予測することができません。つまり、株価チャートの形状や移動平均線といった特定の指標から、何かしらの売買シグナルを得ようとするテクニカル分析では将来の株価の予測をすることはできないことになります。

セミストロング・フォーム(準強度の効率性)

現在の市場価値にすべての公開情報が反映されている状態を指します。そのとき、市場価値は新しい公開情報を速やかに反映します。

例えば、メーカーの新製品の発表や四半期の収益情報などの財務情報の発表があった場合に、株価は速やかにそれらの情報を反映し上昇/下落します。そのため投資家は、それらの新しい情報を使って分析を行ったとしてもすでに株価に織り込まれているため、将来の株価予測には使うことができません。また、過去の公開情報を使って収益の予測などを行っても、過去の公開情報はすでに株価に織り込まれている為、それらの情報は将来の株価に何の影響もなく、株価予測には使うことができません。

つまり、投資家は財務諸表などの公開情報を使ったファンダメンタル分析から将来の株価の予測をすることはできません。将来の株価を予測するには、その企業や関係者しか知り得ない未公開情報(インサイダー情報)が必要ということになります(インサイダー情報に基づいて取引をすることは法律で禁じられています)。

ストロング・フォーム(強度の効率性)

現在の市場価値に公開情報および未公開情報を含むすべての情報が反映されている状態を指します。過去の価格や公開情報、インサイダー情報でさえも株価に織り込まれており、投資家はどのような情報からも将来の株価の予測をすることができません

例えば、ある企業が競合企業の買収を考えているとします。買収に十分なシナジー(事業間の相乗効果)があるとすると、買収発表後株価は上昇するでしょう。ストロング・フォームでは買収発表前ですらその情報が株価に織り込まれていると考えます。すると買収発表前にその情報を知っていた投資家(インサイダー情報を持っている投資家)ですら、その情報から利益を得ることができません。

現実の世界では、情報の公平性の観点からインサイダー取引は禁止されており市場価値がすべての未公開情報を反映しているとは考えられていません。

分類定義情報の種類株価予測
ウィーク・フォーム現在の市場価値に過去の証券市場のデータがすべて反映されている状態過去の価格や出来高テクニカル分析から将来の株価の予測はできない
セミストロング・フォーム現在の市場価値にすべての公開情報が反映されている状態公開情報ファンダメンタル分析から将来の株価の予測はできない
ストロング・フォーム現在の市場価値に公開情報、未公開情報もすべての情報が反映されている状態未公開情報、インサイダー情報すべての情報から将来の株価の予測はできない

テクニカル分析とファンダメンタル分析

テクニカル分析とファンダメンタル分析に少し触れましたが、もう少し考えてみたいと思います。ある市場を先程の3つの分類に当てはめるには、テクニカル分析、ファンダメンタル分析によって市場の平均リターンを上回ることができるかを測ってみることが有効です。

テクニカル分析

テクニカル分析とは過去の価格情報や出来高などの証券市場のデータを使って収益を狙う手法です。具体的には、株価チャートや移動平均線などのパターンを読んで相場の先行きの予測を行います。ゴールデン・クロスという言葉をご存知でしょうか?短期の移動平均線が長期の移動平均線を下から上に突き抜けたときをゴールデン・クロスと呼ぶのですが、テクニカル分析ではそのような時はこれから相場が上昇傾向になりそうだ、と判断します。

ウィーク・フォームではテクニカル分析から市場平均のリターンを上回ることができないため、テクニカル分析から市場平均のリターンを上回ることができるかどうかを検証すると、その市場がウィーク・フォームかどうかを判断することができます。一般的にテクニカル分析では短期的に収益を得られることがあっても、継続的に収益を得たり、株価を予測したりすることは難しいと言われており、その場合はウィーク・フォームが成立していることとなります。一部の市場などではテクニカル分析が機能するケースもあるようで、そのような市場ではウィーク・フォームの効率性すら成立していないと言えます。

ファンダメンタル分析

ファンダメンタル分析とは企業の収益や配当、その他財務諸表の情報などの公開情報を使って分析する手法です。セミストロング・フォームが成り立つ市場では、公開情報はすでに株価に反映されているため、テクニカル分析はおろか、ファンダメンタル分析でも収益を上げることはできません

イベント・スタディという手法をご紹介します。イベント・スタディとは、企業による新しい情報(例えば、収益のアナウンスメントや配当額の変更など)の公表などの「イベント」が株価にどのような影響を与えるかを調査することを言います。セミストロング・フォームが成立していれば、新しい公開情報は速やかに株価に反映されます。速やかに情報が株価に反映されるため、その情報を分析して投資判断を行うころにはすでに株価に織り込まれており、ファンダメンタル分析で利益を上げることができません。セミストロング・フォームが成立していない市場では、イベント後緩やかに時間をかけて株価に反映されたり(例えば決算発表後、数日間から数週間に渡って株価が上がり続けたり下がり続けたりすようなことを指します)、イベント後株価が急激に上昇(下落)した後に低下(上昇)するようなオーバーシュート(ストップ高を付けた翌日に株価が急反転したり、その逆が起こったりすることを指します)を示したりします。

アクティブ運用 vs パッシブ運用

市場がセミストロング・フォーム以上に効率的であるならば、ファンダメンタル分析は有効ではないため、投資家はパッシブ運用を行うべきです(前回の「効率的とは」でも市場が効率的であるならばパッシブ運用が選択されることに触れました)。皆さんもアクティブ運用の多くのファンドは長期的にはパッシブ運用に勝てないという指摘を聞いたことがあるかもしれません。

ではアクティブ運用は不要なのでしょうか?ファンダメンタル分析に意味はないのでしょうか?

セミストロング・フォームが成り立つ市場ではファンダメンタル分析により市場平均リターンをアウトパフォームすることはできませんが、逆にファンダメンタル分析を行う投資家が存在しなければ市場の歪み(市場価値と本質的価値の乖離)は解消されずセミストロング・フォームが成り立たないことになります。誰でも簡単に気付くような市場の歪みであれば、すぐさま乖離は解消されるでしょう。従って、ファンダメンタル分析は卓越したスキルを持つ投資家(他の投資家によってミスプライスが修正されていない証券を見つけることができるスキルを持つ投資家)や新しい情報が反映される前に(インサイダー取引に該当しない範囲で)取引ができる投資家にとっては有効な手法と言えます。

別の例を考えてみます。世の中のすべての投資家がパッシブ運用しか行わない世界を想定します。この世界では、すべての投資家が本質的価値を考慮せずに市場インデックスと同じ銘柄、割合で投資しています。市場価値が本質的価値と乖離していたとしても、それを正す投資家がいないことになります。すると市場価値と本質的価値のギャップが解消されないため、市場は非効率となってしまいます。市場が効率的なためすべての投資家はパッシブ運用を選択しましたが、その結果、非効率な市場となってしまいました。ここから言えることは、アクティブ運用によって市場の効率性は高められているため、パッシブ運用の比率が高まりすぎると市場の効率性は低下し、アクティブ運用の比率が高まりすぎるとパッシブ運用の優位性が高まっていくということです

まとめ

今回は市場の効率性の分類についてご紹介しました。また、テクニカル分析、ファンダメンタル分析と市場の効率性の3つの区分との関係をご説明しました。

セミストロング・フォームの市場ではアクティブ運用を選択する理由はなくなってしまいますが、アクティブ運用が行われなくなれば市場は非効率になるというパラドックスが生じます。

市場の効率性と投資戦略は密接に関わるものですので、ご自身が投資を行う運用戦略や投資信託がどのような背景でその投資手法を取っているか考えてみるのも投資を理解する手助けとなるかもしれません。